第8章
「あー!お前!ちょっと丁寧に扱え!」
「だってこれ難しいんだもん!」
ケガが治りかけだというのに、レイナに射撃場に連れてこられる。
治るまで武器を交換してみたいと言う。
「反動に抗ってはダメだ。受け止めてリズムよく撃つんだよ。
「ちったあ褒めてくれたっていいじゃん!」
「命の恩人のアドバイスくらい聞いておけっての。」
「むぅ~……。」
私とレイナの入隊から1か月ほどで、私たちウルフチームはDEAの作戦に参入した。
事前のカレンの説明ではバックアップだけ。
しかし、実際は私たちの制圧目標の拠点が、敵の本居地だった。
この「ブラザーフッド作戦」と銘打たれた作戦で、私とレイナは敵の重要人物とみられる男に遭遇し、戦闘となった。
その過程で、私はレイナをかばって肩を負傷していたのだ。
「教え方が悪いかも~~」
「“かも”ってつければ何でもマイルドになると思ってんのか!」
「はあ……やっぱこれを一番うまく扱えるのはアンだけなのかな……」
「それは入隊前に分かってたことだろ?」
「入隊前……そういえばさー!コールサイン!どう思った?」
「え?いや別に……というか、まあ、ちょっと買いかぶりすぎだとは思った。」
「でもアンはいいじゃん!ハウンドなんてカッコイイし!!」
ハウンドは猟犬のことだ。
おそらく名付けたのはカレンだが……私の荒っぽさみたいな部分が表れているようで、実はあまり好きになれない。
「それに比べて私はマスティフだよ?」
「マスティフだってハウンドと同じく猟犬じゃないか。」
「でもさー……なんかこうモフモフしてちょっとマヌケな顔してるじゃん!」
全マスティフ愛好家に謝れ。
あと、マヌケな感じなら最も似合ってるだろうに。と思ったが言わないでおいた。
「じゃあ、変更を打診したらどうだ?できるのかは知らないが。」
「カレンに却下されちゃった。また考えるの面倒だって。」
「まあ、それはそうか。」
「くっそおぉ……せっかくなら銃と一緒に名前も交換したいくらいだってのに!」
レイナがどついてくる。
振動が肩に伝わりズキッと傷が痛む。
「いっ!!」
不慮の事故に慌てるレイナ。
「あっ、あっ、ごめん!大丈夫?」
「……平気だよ。」
「なんか、いっつも腕の近く怪我してるよね~。」
「強盗事件の話か。もう懐かしいくらいだ……そういえば、結局事件の全貌はよくわかってないんだよな。」
「うーん、あたしは気にしてなかったからなあ。」
「……こういう日々が続くのだろうか……」
「そりゃあ、続くっしょ。」
怪我ばっかりするのは困る……。
覚悟はしていたが、ここ数ヶ月で予想よりずっと危険な世界だと思い知らされた。
「もっと強くならなくちゃいけないのかな。」
「もち!でも、今度は私も反省した!」
「お前が反省?」
「だって!あんなゾンビ野郎がたくさん出てきたらヤバいじゃん!アンだってたくさんいるわけじゃないし……」
「確かに、ああいうやつが地元にいるってのは………おい、今しれっと盾にしようと——」
「へへ……今度は、アンが撃たれる前に、私が撃たなきゃね。」
そういうとレイナは自慢のクロスマスターのダブルタップで、5つのターゲットの頭を正確に撃ち抜いて見せた。
「……私も負けていられないな。」
いまや、私は特殊科のハウンドになった。
特殊科…元は化学班のことで、創設当時はCBRNeなどのテクノロジーを活用したテロに対抗する人材を育成していたそうだ。
カレンの言う通り、時代は変わっていく。
生身でも銃に対抗する奴が出てきたなら、特殊科である私たちは、それに適応し、同じくらいの力で対抗しなくてはいけない。
「一難去ってまた一難だ…」
一つの戦いが終われば次の戦いへ備える……そのたびに壁があり、悩む。
私の人生に悩みは尽きないような気がしてきた。
「え?今なんか言った?」
……まあ、今後は一人で悩まなくて済みそうだが。
「貸してるあいだ、メンテを欠かすなって言ったんだよ。」
「え!バラしてもいいの!?」
「あ!!やっぱ今のなし!!」
まずはコイツをどうにか手なずける方法を考えた方が良さそうだ……
『ハウンド・コンプレックス』 完
付録
北アウシェラタクティカル学園 某日 PM 14:42
「つまり、北アウシェラ支部の、資金調達チームの、さらにその端くれだったと?」
「…端くれの端くれかもしれないけれど。でも、それは組織を大きくとらえた場合ね。」
「ここのところ分派してきているという話は前に先生が言ってたの覚えてます。」
「そういうことよ。…あー、で、あの子が関わってるのは本当なの?これ報告するから嘘つかないでよね。」
「なら嘘をついた方がいいでしょ。キャリア的に。」
「それはつまり関わってるってこと?」
「そういうことです。本人が言ってたんで。」
「……あの子もまあ、勝手なタイプよね。」
「ふふ……”サメ”ちゃん……可愛いもんですよ。一応他人のためだったらしい。」
「何それ。人のためなら管轄外の、しかもマフィアに先制攻撃していいとでも思ってるの?北アウシェラで紛争でも起きたらどうすんのよ。」
「そんなん言われても知らないですよ、私でさえコントロールできない。でもまあ、あの年にして職業病というか、可哀想というか。ヤクザのシノギが流行っちゃったから……」
「なに?タピオカ屋でも行ってたの?」
「まさに。で、調べたら人身売買に関わってそうだったから……って。」
「はあ……あんなもんに興味あるとは思えなかったんだけど。」
「統計的に陰キャは陽キャの文化を3~5年遅れて取り込む傾向があるから。」
「アンタの統計でしょ。」
「もちろん。……まあ、本当に関わってるんで。潜入班が絡むことは私も口外するつもりないっす。あいつも、そのまま諜報機関とかそっち系行くみたいなんで。」
「前に会った時にやめとけって言ったんだけどね。ろくでもない。国からの要請だから仕方ないとはいえ、アメリカ人から言わせてもらうと政策からして終わってるわよ。」
「あんま言わない方がいいっすよ。ただでさえDEAのくせに内政干渉したらまた爆発が起きる。日本人からの忠告っす。」
「…あんときFBIに入っときゃあ良かったわよ。」
「んじゃ、オリエンあるんで。」
「あー、そっち系って単語で思い出したけど、あんたいい加減進路考えてるんでしょうね?あと何ヶ月で卒業だと思ってんの?それともまた留年する気??」
「それもいいな。」
「学費払ってる親御さんの身にもなりなさいよ。進路について話し合ったことある?」
「2年の年末に5分話したきりだねぇ。」
「……」
「……なに?」
「まだ引きずってるの?いや、引きずるな、とは言わない。でも少しくらい自分のことを考えないと。」
「だいたい進路ってのがわけわかんねぇ。普通こういう学校は軍一択のはずですよね?そう、つまりこの学校は普通じゃない。」
「でも変わり始めているでしょ?」
「いや、全然。私が去っても校長はまだ椅子に座ってるだろうし。」
「そんなに私が頼りないかしら。」
「このままでは我慢対決で負ける。その前に、一泡吹かせてやらないと。」
「じゃあ、国会議員になることね。」
「はは、それもいい。」
「……ねえ、よく頭を使いなさいよ。」
「そうするさ。」
「……」
「あ、そうだ。アンとレイナのコールサインですけど、結局どうするんですか?」
「なんでもいいわよ。特別、犬好きってわけじゃないし。」
「じゃ、ハロ先生が好きそうなのをこっちで選んどきますよ。」
「この趣味はついていけないわ。戦ったことないやつの意見って感じで。」
「ええ、全く。」
「ネームバリューの塊のあんたが言っても説得力ないわよ。」
「ふはは!脅してとった名前にしてはずいぶんトクさせてもらってるよ。次はだれがウルフになるんだか。」
「こればかりは分からないけど、アンが最も近いと思うわ。」
「栄光浴とプレッシャーのダブルパンチで日に日に指の動きが激しくなりそう。」
「下品な物言いは年相応だこと。」
「さて、そろそろ行かないと遅れちまう。」
「西の大学に顔出す件も忘れないでよ。」
「はっきりさせておきたいんですが……あれ、私の進路指導の一環ですよね?」
「今のうちに色々と選択肢を検討しなさい。」
「“ユーモア”たっぷりな案件をどうも。」
「お似合いよ。」
「いや、似合ってないね。それじゃあ20時に連絡ください。」
「21時にするわ。ブラザーフッド作戦の計画に見直しが入ったから。」
「決行はまだ先ですが、作戦についてはチームに話しておきますか?」
「てきとうでいいわ。」
「了解。ではまた。」
付録 完
あとがき
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
本当は色んなキャラ達の短編をまとめてゲームにする予定でしたが、アンの話だけでこんだけ時間を使ってしまったため、完全にスタミナ切れです…
一般的なゲームのシナリオとしてはさほど長くないんでしょうが、片手間となるとなかなか体力を使うもんなのです。
ゲームのアイデア自体は結構湧いてくるので、普通に作るのも良かったんですが、世界観の説明すら不十分だなーと。
そういう理由もあったので今作はちょっとしたツナギというか、説明をして別ゲーに繋げたいなーとは思っていました。
特に一番とっつきやすい武器の話とか全然してないし……とか思っていた時に、アンの武器エピソードがふとよぎったので、今作はアンの話になった、というわけです。
『OPERATION:BROTHERHOOD』でアンがスカベンジした武器を使っていることは話題に出ていますが、その辺も昨今のゲーム事情から手を出しやすくはなっていました。
ただ、古典の時間に習った『羅生門』でもそうですが、剝ぎ取るという行為自体は良くないことです。
さっきゲーム事情的にやりやすいみたいなことを書きましたが、リアル事情的にも顕在化した問題のため、ぶっちゃけ気軽に扱わないほうがいいです。
にも関わらず、なぜテーマの一部として扱ったのかというと、それは『In Your Humor』と同じ作者だからかもしれないですね。
アンは実際いい子ですが、どんな人間でも心が完全に均一でないように、アンの心も偏りがあります。いい子という属性がある時点でそう。
そんなアンのいけない性癖を世間に晒したい性格をどこかで多様性として肯定することも必要だと思っています。
いや、あるいはこの物語を通して、私の中の何かしらの心理に名前をつけて明らかにし、カレンのような素晴らしい友人に肯定してほしかったのかもしれないですね。
まあ、今回の件でとりあえずアンは反省しているので、そんなに……うん………多分だけど、もうやんないはずなので、何事もそういう理性的なコントロールができればいいんじゃないでしょうか。
色々なことに自覚的でありたいものですが、今回はうまくいったと思います。
なぜなら『ハウンド・コンプレックス』と名前をつけることができたからね。
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